ミケル・バルセロ展@東京オペラシティ(2022年1月26日)

 東京オペラシティ アートギャラリーでの、スペインの現代美術家ミケル・バルセロ展がすごくよかったので、1月に見てからツイッターで継続的に少しずつつぶやいてきました。ようやくまとめたので、興味を持った方にはぜひ現地に行って!

 最初、一番気に入った作品として、「舟」を描いた最近の作品である「不確かな旅」(2019)から紹介。「アナザーエナジー展」( https://operaandarts.seesaa.net/article/202112article_13.html )のミリアム・カーン作品にもつながる、歴史から消されそうな難民の姿がみえる。一筆で描かれた舟、むしろ飲み込む波のような。

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 「漂流物」(2020)。イェイツ、ポー、ヴェルレーヌなどの名前が波間に……

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 「午後の最初の一頭」(2016)。闘牛場というモチーフが星雲のように見える、宇宙的スケールを感じる一枚。白熱したその中心にいるのは、一頭の牛とひとりの人間。吸い込まれそう!

午後の最初の一頭 (2).jpg午後の最初の一頭 2 (2).jpg


「In media res」(2019)カタログ表紙作品。これも闘牛場が太陽そのもののようなエネルギーの渦に。筆跡が閉じ込める速度に同会場で見た白髪一雄も思い出す。タイトルは「物語の中途へ」なんだろうけれど mediaにsがないのはなぜなんだろう。

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*これについてはツイッターでご教示いただいた。カタログの31ページより。
  バルセロは、とくに2016年から現在まで、闘牛の主題に立ち戻っている。本展覧会ではここ数年の、闘牛を主題とする作品を展示する。焦点のあて方はさまざまで、闘牛を分析的、抽象的に描いた《影/太陽》(cat.15)は、闘牛を観戦する客席、つまり日影の席なのか、日向の席なのかを示唆している。また、《銛の刺さった雄牛》(cat.19)では背中に銛を突き立てられた雄牛が描き出されている。闘牛は絵画の寓意なのであって、双方共に儀式めいた行為の結果なのである。《イン・メディア・レス[ラテン語で物語の途中から語りだす文学技法「イン・メディアス・レス」と、スペイン語の「レス(四足獣)」、つまり闘牛の雄牛の正面にいるという表現をかけ合わせたタイトル]》(cat.23)のような作品に描かれた小さな闘牛士はカスパー・ダーヴィッド・フリードリヒの《海辺の僧侶》(1808-10年)を髣髴とさせる。


「イン・メディア・レス In media res」(2019)ちょっと脇から「渦」感を確認。バルセロ展はいろいろな絵でこの「横から見る」楽しみがある。
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「小波のうねり」(2002)横から斜めから、色々な角度から表情が楽しめる作品。絵具に繊維状物質を混ぜて、塗ったカンヴァスを画面下にして吊り「鍾乳石やつららのように固まっていくようにした」とか。不思議なとがりは重力のおかげか!

小波のうねり1.jpg

全景はこんな感じ。さざ波たつ海面。遠くからだとここまでトゲトゲとは思わないので、最初は苔の生えた原野っぽいなと思ったのだった。

小波のうねり2.jpg


「カピロテを被る雄山羊」(2006)彫刻もありました。スペインと言えば《ドン・カルロ》な脳の私には何といってもこの三角帽子が……!異端審問の罪人がかぶせられるやつだよね?!と、今回は被ってるのは山羊なのに盛り上がる。そして「カピロテを被る雄山羊」(2006)を「マッチ棒」(2005)と一緒に。

カピロテを被る雄山羊1.jpgカピロテを被る雄山羊とマッチ棒.jpg


 「マンダラ」(2008)。白黒グレーで淡々とおおらかに描かれた、「アフリカの川の風景」。すばらしい解放感!そして、鴻池朋子展でもこんな「大河の風景」見たな、という記憶(https://operaandarts.seesaa.net/article/202010article_4.html )。ぐっと近くで見ると、舟を漕いでいる人がいきいきしているんだよね。闘牛士もそうだったけど、これだけの線でこれだけの描写ができるってすごいなー。

マンダラ1.jpgマンダラ2 (2).jpg


 「歩くフラニ族」(2000)、前の作品と同じアフリカ題材でも、こんなそのまま絵本になりそうなカラフルな小さい水彩画もたくさん。彼らの住む共同体が見えてくるよう。

歩くフラニ族.jpg

 同じくアフリカを描いた水彩。「サンガの広場 フラニ族の羊飼いに栗のガレットを与えるドゴン族の女性」(2000)、「檻をかつぐボンゴのおじさん」(2000)、「4人の座る女たち」「紫色のスカートの少女」(2006)

サンガの市場 フラニ族の羊飼いに栗のガレットを与えるドゴン族の女性.jpg檻を担ぐボンゴのおじさん.jpg紫色のスカートの少女 4人の座る女たち.jpg


 立体作品も。「私の馬の尻」(2007)というストレートなタイトル!確かに多くのアーティストがその筋肉を愛してきた馬、その力強さが出る部分はここですね。遠めに「私の馬の尻」を別角度で置きつつ、近作の、赤もあざやかな「カサゴの群れ」(2020)。食いつかれそう!

私の馬の尻1.jpgカサゴの群れ.jpg


 20代終わりに描かれた「ルーヴル」(1985)。若い画家による、どこま行っても終わりのない(西洋)美術史の圧倒的な長さ・大きさの描出なんだろうな。めまいがしそう。奥のほうだけ拡大しても結構な密度でちゃんと描かれていてコワいw お隣にはほぼ同時代の「海のスープ」(1984)

ルーヴル 1.jpgルーヴル1.jpgルーヴル 部屋.jpg


「海のスープ」(1984)。壁の解説より→「バルセロの描くスープは、生物が生まれてくる以前の、原初的な混合液を想起させ、その混合液は生命の起源を説明するものと考えられている。」
「海のスープ」かくはん棒をアップにw しかしバルセロの作品に頻出する「渦」というテーマ、闘牛場でも思ったけれど、本当に「宇宙のはじまり」っぽい!

海のスープw.jpg海のスープ かきまぜ棒w.jpg


「雉のいるテーブル」(1991)。ポスターにもなってる作品。壁の解説から。「この作品は、西アフリカの魔除け市(フェティッシュ・マーケット)に並ぶ、まじないや呪術のための干からびて黒ずんだ動物たちの死骸(ミイラ)に着想を得て制作された連作の一点です。」遠景から見ると黒い抽象画?と思うくらいだけど、至近距離で見るとすごく写実的な「動物たちの死骸」がいろいろ浮き上がってくる。《マクベス》とかで「魔女の鍋」に入れるアレですよ!

雉のいるテーブル1 (2).jpg雉のいるテーブル2 (2).jpg雉のいるテーブル3 (2).jpg


「銛の刺さった雄牛」(2016)。壁の解説より。「闘牛士は、孤独に制作を行い失敗の危険に立ち向かう画家の自画像であり、バルセロの制作行為は、ときに闘牛と同じく儀式めいた性格を帯びる。」
至近距離で見るといつぞやバーゼリッツ( https://operaandarts.seesaa.net/article/201803article_13.html )の絵に見た「傷」と似たものを感じる。これと「午後の最初の一頭」「イン・メディア・レス」が並ぶこの部屋は「闘牛」の宇宙だね。

銛の刺さった雄牛1.jpg銛の刺さった雄牛2.jpg銛の刺さった雄牛3.jpg


「亜鉛の白:弾丸の白」(1992)。山羊が逆さに吊られた磔刑図。壁の解説より。「冒涜的とも取れるこうした図像によってバルセロが向き合おうとしているのは、神なき現代におけるわれわれ人間の受難と救済の問題であろう。」この血の赤のロープがまた強烈。この絵が置かれている空間全体、時空が歪んで別世界への扉が開きそう。

亜鉛の白 弾丸の白1.jpg亜鉛の白 弾丸の白 2a.jpg


「とどめの一突き」(1990)。チケットに使っているのがこれか。闘牛場のシリーズはどれも熱気でどろどろに溶けた鍋のよう……というかもうこのままUFOになりそう(笑)。そうは言ってもこの絵は客席の部分がまだちょっと判別つく感じかな?
これもかするような筆致なのに、最後の場面の赤い布や牛の動きなどわかる気がする。すごいな。

とどめの一突き1.jpgとどめの一突き2.jpg


「堅い頭の動物たち」(2012)と「大蛸」(2016)。巨大セラミックコーナーにも面白い造形が並ぶ。このへんの壺は人間等身大くらいの大きさ。爬虫類と……人間だよね?「宇宙人の写真」とかでも見る感じだけど。たとえば地球の外から見たら「動物たち」として同等に並べられるんだろうな。そんなサンプル感。

堅い頭の動物たち1w.jpg堅い頭の動物たち2w.jpg大蛸と堅い頭の動物w.jpg

「大蛸」(2016)。蛸のモチーフは最初のほうの絵画でもいくつか見たけれど、このでこぼこした土器に絡みつく感じはまた圧巻。

大蛸1w.jpg大蛸2w.jpg


 最後にアヴィニョン演劇祭で上演されたパフォーマンス『パソ・ドプレ』(2006)の映像が待っているので、かならず時間を確保して!私は10分も時間が残っていなかったので泣く泣く途中で出てきました。バルセロと舞踊家・振付師のジョセフ・ナジが二人で陶芸の土と戯れる……というか取っ組み合う?たいへん刺激的なパフォーマンスでした。

パソドプレ1.jpgパソドプレ2.jpgパソドプレ3.jpg



 ミケル・バルセロ展@東京オペラシティは3月25日(金)まで!とても充実した展示です。とりあえず小さな写真で紹介してきましたが、このスケール感を体験するには会場にいかないと!オペラシティコンサートホールや新国の前にぜひちょっと寄ってみてください。
https://www.operacity.jp/ag/exh247/

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